後付けIoTの4つの方式と、あなたの設備で使えるのはどれか

設備稼働の見える化 公開 ゲンバジャーナル編集部

工場の稼働を見える化したい。ただし設備は買い替えられない。この前提で選べる方法は、実質4つしかありません。この記事では、その4方式の違いと、自社の設備条件からどれを選ぶべきかを整理します。

後付けでデータを取る方式は何種類あるのか

後付けIoTのデータ収集方式は「信号灯方式」「電流センサー方式」「PLC直結方式」「制御装置API方式」の4つに整理できます。設備側への介入度が低い順に並んでおり、介入度が上がるほど取得できる情報が増える一方、導入のハードルも上がります。

方式設備への介入主に取れるデータ年式の制約費用感
信号灯(パトライト)なし稼働 / 停止 / 異常ほぼ無し低
電流センサーなし(電源のみ)稼働 / 停止 / 電力量ほぼ無し低〜中
PLC直結あり稼働、生産数、工程内の各種値中程度中
制御装置API設定変更サイクルタイム、加工プログラム、アラーム詳細大きい中〜高

重要なのは、上位の方式が常に優れているわけではないという点です。稼働率を把握して段取り改善につなげたいだけなら、信号灯方式で目的は達成できます。取れるデータが多いほど良いという発想で選ぶと、使わないデータのために費用と工数を払うことになります。

信号灯方式はどういうときに選ぶべきか

積層信号灯が付いていて、まず「動いているか止まっているか」を把握したい場合は、信号灯方式が第一候補です。設備に一切手を入れずに済み、年式も制御メーカーも問いません。

センサーを信号灯に貼り付けるか、信号灯の配線に並列で接続して点灯状態を読み取ります。前者は完全に非接触で、設備メーカーの保守契約にも影響しません。

導入前に確認すべきなのは、点灯ルールが工場内で統一されているかです。「黄色=段取り中」の設備と「黄色=異常」の設備が混在していると、集まったデータの意味が設備ごとに変わってしまい、集計できません。この整理は導入作業ではなく現場の運用ルールの問題なので、ベンダーは代わりにやってくれません。着手前に自社で決めておく必要があります。

電流センサー方式はどういうときに選ぶべきか

信号灯が無い設備が含まれる場合、または電力量もあわせて把握したい場合は電流センサー方式が適しています。電源ケーブルにクランプ式のセンサーを挟むだけで、設備の種類を問わず適用できます。

電気代の高騰を受けて、稼働監視と電力管理を同時に始めたいという相談は増えています。1つのセンサーで両方の目的を満たせるのはこの方式だけです。

注意点は、待機電力と加工中の消費電力の差が小さい設備では判定精度が落ちることです。大型のマシニングセンタのように差が明確な設備では問題になりませんが、小型の設備や、常時ヒーターが入っている設備では閾値の調整が必要になります。導入時に実際の波形を見ながらチューニングする工数を、見積に含めてもらってください。

PLC直結方式と制御装置API方式は何が違うのか

PLC直結方式は設備を制御しているシーケンサからデータを読み出す方式、制御装置API方式は工作機械の制御装置(CNC)が公開するインターフェースから読み出す方式です。似ていますが、対象が違います。

PLC直結方式では、Modbus TCP や EtherNet/IP といった産業用プロトコルでPLCのデバイスメモリを直接読みます。生産数のカウンタや工程内の各種設定値など、PLCが持っている値であれば取得できます。反面、どのアドレスに何が入っているかを把握する必要があり、設備メーカーか社内の電気設計担当の協力が前提になります。

制御装置API方式では、FANUC の FOCAS、あるいは OPC UA や MTConnect といった標準インターフェースを使います。サイクルタイム、実行中の加工プログラム名、アラームコードまで取得でき、情報量は4方式で最大です。

ただし制約が大きい方式でもあります。同じメーカーの制御装置でも、年式とオプション構成によって通信機能が有効になっていないことが珍しくありません。「FANUC だから大丈夫」とは言えず、現物の型式とオプションの確認が必須です。ここを確認せずに製品を選定して、導入直前に使えないと判明する事例が起きています。

費用はどこで差がつくのか

方式そのものよりも、設置工事とネットワーク整備で差がつきます。センサー単体の価格差は数万円ですが、工場にネットワークが来ていない場合の整備費用は数十万円単位になります。

見積を比較するときは、以下が含まれているかを必ず確認してください。抜けていると、後から追加費用として出てきます。

  • 現地調査(サイトサーベイ)の費用
  • センサーの設置工事費(高所作業や停電を伴う場合は別途)
  • ネットワーク工事費、または LTE ゲートウェイの通信費
  • 点灯ルールやデータ定義の設計支援
  • 初期設定後のチューニング工数

工場のWi-Fiを使う前提の見積が出てきた場合は、事前の電波調査が含まれているかを確認してください。金属製の設備が並ぶ環境では電波が想定どおり届かず、導入後に有線工事をやり直すことになりがちです。

方式を決めたあと、最初にやるべきことは何か

推進担当を1名決めることです。技術的な失敗よりも、データを見て動かす人が決まっていないことによる形骸化のほうが、はるかに多く起きています。

見える化そのものは利益を生みません。取得したデータを見て、段取り時間を削る、チョコ停の原因を潰す、見積の原価根拠を作り直す——こうした行動につながって初めて投資が回収されます。ダッシュボードが立ち上がった時点を成功と定義してしまうと、半年後には誰も見ないシステムになります。

専任である必要はありません。兼任でも、「毎週この数字を見て、何か1つ手を打つ」と決められている人が1人いるかどうかで結果が変わります。導入前にここを決めてください。

よくある質問

通信ポートが無い古い工作機械でも稼働率は取れますか?

取れます。積層信号灯の点灯状態をセンサーで読み取る方式、または電源ケーブルにクランプ式の電流センサーを付ける方式であれば、設備側の通信機能に依存せずに稼働・停止を判定できます。ただし取得できるのは稼働の有無が中心で、サイクルタイムや加工プログラム名までは取得できません。

信号灯方式と電流センサー方式はどちらを選ぶべきですか?

積層信号灯が付いていて点灯ルールが工場内で統一されているなら信号灯方式が確実です。信号灯が無い設備、点灯ルールがバラバラな設備、電力量もあわせて把握したい場合は電流センサー方式が適しています。

設備メーカーの保守契約に影響しますか?

信号灯方式と電流センサー方式は設備の制御に触れないため、影響することはまずありません。一方でPLC直結方式はラダープログラムの変更を伴う場合があり、保守契約の条件に抵触する可能性があります。着手前に設備メーカーへ確認してください。

この記事に出てくる用語

  • OPC UA — OPC UAとは、製造設備どうしがメーカーの違いを越えてデータをやり取りするための、産業用の通信規格である。データの中身の意味づけ(情報モデル)まで規定している点が、単なる通信手順の規格との最大の違い。
  • MTConnect — MTConnectとは、工作機械から稼働データを読み出すことに特化した通信規格である。読み取り専用で、設備へ指令を書き込む機能を持たないため、既存設備に接続する際の安全性が高い。
  • OEE — OEEとは、設備の総合的な効率を「時間稼働率 × 性能稼働率 × 良品率」の掛け算で表した指標である。3つの損失を1つの数値に統合するため、改善余地がどこにあるかを分解して把握できる。

出典

  1. 各方式の費用レンジは本サイトの製品データベース掲載情報にもとづく